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野暮天堂

旅は道連れ、世は情け

記憶ってやつはおもしろい

記憶というものは不思議なものだ。最近いつも思い出す光景があるが、それがいつのことだったか、どの場所のことだったかまでははっきり思い出せず、やきもきしていた。おかしな話で、ごま塩をかけたごはんと、ピンク色の漬け物があったことだけをただ覚えている。それと同時に、「おいしい」という感覚を同時に思い出している。

 

よく考えて、たぶん見当がついた。おそらくあれは大学の食堂で良く食べていた「チキンカツ定食」の記憶なのだろう。入り口で食券を買い、トレーを持ち、列に並ぶ。そして、いつも見かける食堂の職員さんが、チキンカツをざくざくと包丁で切りソースをかけ、千切りキャベツが添えられた皿にそれを盛る。僕はそれを受け取り、少し離れた場所にあるスペースに行くと、何種類かのドレッシングのなかから好みのものを選び適量かけ、あの「ピンク色の漬け物」を思う存分よそい、ほくほくした気分で席につく。

 

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あの時間が案外幸福な時間だったからこそ、最近ときどき思い出すのだろう。

 

僕の大学は多摩にあるマンモス校で、学食も結構大きかった。4階まである白い建物の中には、そこそこバリエーションに富んだお店が入っていたものだ。そこで、いろいろ食べたはずだが、思い出すのは結局「チキンカツ定食」。次に、「山菜そば」。結構種類を食べたはずなのに、思い出すのはそんなメニューばかりなのが、おもしろい。僕は昔から味覚が貧相なのだ。

 

うだつの上がらない学生だったが、それでもあの時代には思い出があり、愛着を抱いているらしい。くだらない話で時間を無為に流し、春の風に遊ばれて転がるプラスチック弁当の蓋を必死で追いかける友人の背中をゲラゲラ笑いながら眺めた昼下がりの思い出と、結局1回も参加することのなかった学祭と、後ろめたさを残しながら最後に見た学舎。あの場所に未練などないように思えて、実はけっこうあるらしい。

 

過去は現在のなかにしかない、と柳田邦男の本のなかで知った。そういえばそうなのだな、と思う。だとすれば、いまこういった記憶を呼び覚ますことの意味とは何なのだろうか。案外愛着を抱いていたものが、あそこにあった。そんな種類の記憶が、僕に教えたいものはなんなのだろうか。

 

たぶんあの記憶のなかの映像は、自分のなかにしかない。しかし誰かと共有したくてたまらなく、思い出話をしてしまう。