野暮天堂

旅は道連れ、世は情け

野暮天、野毛をあるく 「餃子の翠葉 桜木町店」

 僕は野暮な男だ。風雅とはほど遠い。よってブログ名を「野暮天堂」とした。

 

 さて、今日はちょっくら横浜市桜木町に行ってきた。というのも、来週からそこにあるコワーキングスペースという、まあ誰でも使える自習室のようなところで、仕事をすることにしたので、そのメンバー登録をしに行った。

 僕のような野暮天が、みなとみらいのようなおしゃれな街になじむはずがない、と思いつつも、正直ここの土地柄が大好きな僕にとって理想の職場なのである。本屋はある、神奈川県最大級の図書館がある、食べるところは山ほどある、弁当持参すればそこいらにひなたぼっこスペースがある。素晴らしすぎるのだ。よって、僕はここで働くことにした。夢が広がる。

 簡単な仕事をすませ、すわ昼食だ、と意気込んで桜木町の駅前へ。

 

 今日の目当ての店は「餃子の翠葉 桜木町店」だ。

 

 1992年創業とあるから、かなり昔からあるようだ。老舗、と呼んでいいのかどうかわからないが、門構えはまさしく「昔ながらの中華屋」。正直、いままでこういった「街の食堂」みたいなお店は敬遠していた。チェーン店とは勝手が違うのではないか、と勝手に心配していたのだ。

 勇気を出して、引き戸を開けた。かなり時間をずらして行ったので、お客さんは四人ほど。空いているといっていい。二階にもスペースがあるようだが、一階はさほど広くない。やっぱり「街の中華屋」といった雰囲気の店内だった。

 席に腰を下ろし、店員さんがやってきた。おそらく中国の方だというイントネーション。「ランチまだやってますか」と尋ねると、彼女は壁にかかった時計をみて「まだ大丈夫です」と言った。やはり三時までか。事前に決めておいた「ランチC」を頼む。

 数分もたてば、この場所になじんでいる自分がいた。そして、「また来るなこれ」と思ってメニューを下調べ。

 

 とりあえず今度はサンラータン麺か五目そばだな、ともう今度も来る気満々だ。駅前に餃子の王将があったが、こっちに来るんだろうな、とすでに常連になる気でいる。

 

 

 ものの十分もしないうちに、配膳される料理。

 

 ランチCは「青椒肉絲定食」だ。僕は中華料理の中では、チンジャオが一番好きだ。オイスターソースの風味が大好きなのだ。

 席に料理が並んだ瞬間、「これこれ」と心の中でほくそ笑む。

 これでしかない。

 

 小食の僕にとっては少しつらい量だが、大好物だから全然いけるだろう。

 メシを左手に、チンジャオをかっこむ。わしわし、わしわし。

 そして、「これこれ」と嬉々とする。あくまで無表情で、だ。料理を堪能しつつ、厨房から聞こえてくる調理の音を楽しむ。これって最高のBGMなのではないか。途中、新しい客が来てぶっきらぼうに「炒飯」と注文していた。これだなあ。これこれ。この感じこそ理想の「街の中華屋」だ。

 さらに後からやってきた客はビール一本と、餃子、大根と豚バラの炒めを頼んでいた。いいねえ。昼から夕に変わる時間に一杯引っかけるとは。

 

 時間をかけて堪能し、おなかがいっぱいになって満足満足。会計を済ませて外に出ると、もう明日にでも来たい気持ちになっていた。しばらく界隈をあるいて、今度行こうと思っている洋食屋を探したが、近くには見当たらず。まあいいか、と駅へ引き返した。夕日がまぶしくビルを照らしていた。そこに見えるは居酒屋。「うーん、夜にひとりで居酒屋に行くのもありだなあ。ぐふふ」

 

 あんまり青椒肉絲がおいしかったせいか、帰りに駅構内の本屋で檀一雄の『美味放浪記』を買ってしまった。最近、空気を吸うように活字を読んでいる。もう、拙者はめしと本に金をかけるので、手一杯でござる。財布はすっからかんになりつつある。これぞ、食い道楽本の虫の矜持だ。

 

 

美味放浪記 (中公文庫BIBLIO)

美味放浪記 (中公文庫BIBLIO)

 

 

 檀一雄楽天ぶりと、僕の楽天ぶりが妙にマッチしているな、と勝手に親近感を覚え、電車のなかでほくそ笑んだ。僕もいつか檀一雄のように、「裏町の立ち飲み屋」専門のライターになれたらな、と野暮天なりに野望を抱いたのだった。