【詩っぽい文】あしあと
君が当たり前に生きた証は、もうこの世界から消えてしまったよ
それでもどこかに息づいていると思いたい
だが、それがなんになるというのか
しかし、それが「なにか」になるということになんの意味があるというのか
形作られないものにだって存在理由はあるのだ
僕たちが生きている世界では明確さを求めているよ
単純化できるものばかり信じられるよ
どうやら「帰結」が大事らしい
共通項しか、共有されない
でもそれは、とてもカサカサしたものだよ
あの人のなんでもない小言も空中に舞っていく
はっきり示せるものがいったいこの世の中にどれだけあるのか
夕方のいっとき、親子が交わす言葉は空に舞うようで
その実こころにしみ込んでいくものであったりする
僕が思い出すのは、友達と交わした何気ない会話だった
君の生活のなかに、そういったものがたくさんあったのだろうと
いまは思う
ねえ、君にとっての当たり前っていったいどんなものだったんだい
でも、それはもうここにはないんだね
だから僕らは、時代を下ってからだったとしても、近づきたがるんだ
なぜなら、君たちの当たり前の上に、僕たちの当たり前が存在しているから
君の涙のシミがある石畳を、君の笑顔が浮かんだ田畑の水面を
眺めてなんになるかわからないけど
どうしても覗きたくなるのは
僕たちも君たちの命を受け継いでいるから