野暮天堂

旅は道連れ、世は情け

ROCKY CHACKの曲に合わせて、深夜のオフィス街を歩きたい

僕には小さな目標がある。それは、「深夜、誰もいなくなったオフィス街の姿を写真で撮影し、それを曲に合わせて動画にしてみたい」というものだ。

 

深夜のオフィス街ってなんだか切ない。だから、その切なさを切り取りたい。

 

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僕は大学を卒業する間近に、たいして思い入れのないはずだった学校の「卒業イベント」に出席した。たぶん、せっかくだから、という気持ちと、何か痕跡を残しておかねば、という想いがあったのではないかと。そのくらい、僕の大学生活は無味乾燥なものだった。それは、紛れもなく自分の責任だが、それでも終わってしまう時間に何かしらの意味を刻みたかったのかもしれない。

 

会場は、赤坂のホテルだった。僕らが卒業パーティーを経験したあと、その長い歴史の幕を閉じた。

 

そのイベントは、「イベントらしい」ものだった。学生は名残おしさを楽しんでいるようで、教授陣はなごやかに時を過ごしていて、生焼けの青春に最後に火を通す儀式は、しごく自然に済まされた。そのパーティのあいだに僕が観ていたのは、ひたすらアルコールを求めて歩き回るどこかの学部の教授と、皿の上いっぱいに盛られて食べられないご馳走と、場違いな自分の立場だった。

 

とにもかくにも、おおかたの催し物が終わったと判断できたとき、エンディングを迎えるまえに、僕はその会場をあとにすることを決めた。こうなるかもしれないな、と考え、事前に受付のスタッフに「途中退場ありですか?」と訊いていた。友達は僕の言葉を聞いて、笑っていた。

友達には悪いことをした。友達二人はきっと、エンディングまでいたってよかったのだ。そのあと、少しだけかわいい女の子と親密になったってよかったのだ。でも、あいつらは優しいから、僕に合わせて、帰ってくれた。なぜか、エレベーターを使わず、階段を降りて帰った。

 

僕らは、夜中の街を歩いた。

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休日、眠りにつこうとしている赤坂のオフィス街が、なんだかそのとき、僕の目にひどく切なく写ったのだ。それはきっと、ただの感傷でしかないのだと思うけど、

「ああ、この街は月曜日の朝まで、サラリーマンを待ち続けているんだろうなあ」

とか、

「ぽつぽつと点いている窓の明かり。ああ、休日出勤しているのかなあ」

などと、ゆっくりと点滅する赤いビルの光を眺めながら、ひとり感慨深く納得した気分になっていたのだった。友達は、他愛なく笑い合っていた。

 

僕たちはそのあと、駅前の喫茶店で少しだけ話した。記憶は定かではないけど、僕はひとりだけ、先に帰ったような気がする。

その日は雨降りだったと記憶している。夜の湿った空気が、僕の苦みのある想いを少しだけ濃くするようだった。

 

たぶん、そういう「苦くて情けない」思い出と、「深夜のオフィス街」の光景が、なんだか妙にシンクロしてしまっているのだと思う。だから僕は、深夜人がまばらになったオフィス街を、いつか歩くことを夢想する。

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街灯が点々と灯り、その下で仕事終わりの人間や、まだ働き続ける人が、ぱらぱらと歩いている。見上げると、ビルの窓はまばらに光り、赤い光が「ひとつ、ふたつ、みっつ」と数をかぞえるようにして光っている。そして、寒い風が吹く。

 

誰も、ビルに記憶が宿るとは思っていない。誰も、摩天楼に意識があるとは思っていない。僕も思ってはいない。でも、そう想像すると、あのオフィス街は夜の静寂に、ゆるやかな光を灯しながら朝を待ち、誰かを想っている気がした。

 

だから、撮影してみたかった。

それに、そんな光景に合う曲も見つけてあるのだ。


Rocky Chack - Little Goodbye

 

これが、ぴったりなんだ!

この曲に合わせて、画像や動画を流してみたい。きっと、すごく悲しい気分になるはず。それが、いいんだ。

 

悲しみだって、楽しむんだ。

 

誰か共感してくれんかなあ……?